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健康経営と人的資本経営の関係とは?健康施策を経営課題につなぐ実践手順

「健康診断やストレスチェックは実施している。でも、「健康セミナーを企画しても、忙しい部署ほど参加できない」。健康経営を担当する人事・総務の方には、こうした悩みがあるのではないでしょうか。

一方、現場では「欠勤が出ると特定の人に仕事が集中する」「研修をしても、疲労や業務の忙しさで学んだことを生かせない」といった問題が起きています。健康施策と人材・組織の課題を別々に扱うと、支援が必要な場面に取り組みが届きにくくなります。

健康経営を人的資本経営につなげるには、「どの経営課題に対し、働くうえでのどの支障を減らし、何で変化を確認するか」を明確にすることが重要です。

専任部署や大規模なシステムがなくても、既存の健診情報の集計、簡易アンケート、定例会議を活用して始められます。本記事では、両者の関係を整理したうえで、現状把握から施策設計、社内への伝え方、効果測定、経営会議での判断までを順番に解説します。

目次

1.健康経営は、人的資本経営の「能力を発揮できる土台」を支える

人的資本経営と健康経営の関係

人的資本経営とは、人材を価値創造の源泉と捉え、その能力や意欲を引き出すことで、中長期的な企業価値の向上につなげる考え方です。採用、育成、配置、働く環境の整備などを、経営戦略と結び付けて考えます。

健康経営は、従業員の健康管理を経営的な視点で捉え、戦略的に実践する取り組みです。健康は、学ぶ、判断する、協力する、安定して働くといった活動の土台になります。

つまり、両者は同じ意味ではありません。健康経営は、従業員が能力を発揮できる状態を支えることで、人的資本経営に貢献します。

例えば、新しい事業に向けて人材育成を進めていても、過重な業務や不調によって学ぶ時間や余力がなければ、研修だけでは十分に力を発揮できません。育成施策と併せて、業務配分や休養、相談体制を整えることに意味があります。

生産性だけを目的にしない

健康支援の土台は、従業員の安全と尊厳を守り、安心して働ける環境をつくることです。健康状態が良い人だけを評価したり、不調のある人に自己管理を強く求めたりする取り組みではありません。

企業が担うのは、診断や治療ではなく、職場環境の改善と必要な支援への橋渡しです。個別の健康問題は、必要に応じて産業医、保健師、医療機関などの専門職につなぎます。

また、法令に基づく健康管理と、任意で行う健康経営施策は分けて整理します。健康イベントやアンケートを実施しても、必要な法定対応の代わりにはなりません。

2.経営上の困りごとを起点に、健康・職場の現状を把握する

最初に「事業や現場で何に困っているか」を一つ選ぶ

施策を考える前に、経営者と担当者で、いま優先して向き合う課題を確認します。人材定着、欠員時の負担、業務品質、育成の停滞など、すでに社内で話題になっている問題から選ぶと進めやすくなります。

次に、その課題に健康状態や働く環境が関係していないか、仮説を立てます。

経営・組織の困りごと確認したい健康・職場の状況確認に使える情報
確認漏れや手戻りが増えている疲労、睡眠の悩み、休憩不足、業務の集中勤怠、簡易アンケート、業務の振り返り
欠勤時に仕事が回らない不調の長期化、相談のしにくさ、代替体制の不足欠勤の集計、相談体制、業務分担
若手の定着に課題がある心理的負担、過重労働、相談相手の不在退職理由の傾向、面談、職場環境の調査
育成した人材が力を発揮しにくい学習時間の不足、疲労、役割の偏り研修後の面談、勤務状況、業務配分

この段階では、健康問題が原因だと決めつけないことが重要です。離職には処遇やキャリア、業務品質には手順や教育なども関係します。健康・職場環境は、確認すべき要因の一つとして扱います。

既存情報を確認し、足りない部分だけ尋ねる

まずは、利用目的や取扱い上の制約を確認したうえで、健診の集計結果、利用可能なストレスチェックの集団分析、残業時間、欠勤の傾向などを見ます。

それだけでは分からない部分を、短いアンケートで補います。例えば、次のような項目です。

  • 睡眠で休養が取れているか
  • 健康上の問題で仕事に支障を感じているか
  • 必要なときに休憩や相談ができるか
  • 支援制度を知っているか、利用しにくい理由は何か

質問は、結果を見て会社が何を変えるか判断できるものに絞ります。施策の判断に必要がなければ、病名や詳しい治療内容まで尋ねる必要はありません。

出勤していても、頭痛や腰痛、睡眠の問題などで仕事の遂行に支障がある状態を「プレゼンティーイズム」といいます。欠勤だけでは把握できない課題を見る手掛かりになります。測定する場合は、利用条件を確認した既存の尺度を用いるなど、継続して比較できる方法を選びましょう。

情報を集める前に、取扱いを決める

アンケートでは、目的、回答の任意性、閲覧者、利用範囲、保管方法などを事前に説明します。健診やストレスチェックの情報には、それぞれ取扱い上のルールがあるため、任意のアンケートと一括りにしないことも大切です。

少人数の職場では、匿名でも部署、年代、自由記述から個人が推測される場合があります。属性を細かく尋ねない、全社単位で集計する、自由記述の原文を共有しないといった配慮が必要です。

経営会議に出すのは、個人の病名や回答ではなく、集団としての傾向と改善すべき職場の条件です。

3.優先課題を絞り、健康支援と職場改善を組み合わせる

優先順位は「影響」と「変えられること」で決める

現状が分かったら、すべての課題に一度に取り組まず、次の観点で優先順位を付けます。

  • 仕事や生活への支障が大きいか
  • 複数の従業員に共通する課題か
  • 会社側で改善できる条件があるか
  • 現在の人数・予算・体制で実行できるか

この整理は、声の大きさや施策の目新しさだけで決めないために行います。ただし、安全上の懸念や医療的な対応が必要な可能性がある場合は、集団施策とは別に、速やかに専門職へ相談する対応が必要です。

本人への働きかけだけで終わらせない

健康情報を伝えるだけでは、行動を変えにくいことがあります。知識を届ける施策と、行動しやすい職場づくりを組み合わせましょう。

優先する課題従業員への支援会社・職場側の改善
睡眠・休養の悩み公的資料を使った情報提供、相談先の案内夜間連絡のルール、残業や勤務予定の見直し
健診後の対応が進まない結果の理解や受診について専門職へ相談できる案内受診時間を確保しやすい勤務上の配慮
心理的負担や相談のしにくさ相談経路の明確化、外部窓口の案内業務量・役割の調整、管理職の対応力向上
身体の負担や休憩不足身体活動や休憩に関する情報提供作業環境、作業手順、休憩の取り方の見直し

例えば、睡眠情報を届けても、深夜の連絡に即応する慣行が残っていれば、休養は取りにくいままです。健康課題を本人の努力だけにせず、会社が変えることも明示します。

施策ごとに、実施条件を一枚にまとめる

実施前に「対象者」「目的」「内容」「担当」「使える時間・予算」「確認指標」「見直し時期」を決めます。

対象者は、全従業員なのか、特定の勤務形態で働く人なのか、管理職なのかを明確にします。特定の健康状態にある人を集める場合は、対象者が周囲に推測されない方法も検討してください。

「睡眠セミナーを開く」ではなく、「休養を取りにくい要因を把握し、情報提供と勤務上の改善を試す」と目的を書けば、実施後の評価までつながります。

4.従業員には安心して使えることを、管理職には担う役割を伝える

従業員への周知は、目的と情報の扱いをセットにする

案内が「アンケートに回答してください」「セミナーに参加してください」だけでは、必要性や安心感は伝わりません。

例えば、次のように説明します。

「疲労や休養の取りにくさを把握し、働く環境の改善に役立てるための調査です。回答は任意で、個人の人事評価には使用しません。結果は個人が分からない形で共有し、改善内容もお知らせします」

実際の運用と異なる約束をしないことが前提です。匿名性を確保できない場合に「完全匿名」と説明してはいけません。

周知は、朝礼、社内メール、ポータル、掲示など、日頃使っている経路を活用します。勤務場所や時間帯によって情報が届きにくい人には、別の伝達方法を用意しましょう。

管理職には「参加を迫る役」ではなく「利用しやすくする役」を依頼する

管理職に求めるのは、診断や治療の判断ではありません。業務負担の偏りに気づき、本人の話を聴き、必要な窓口につなぎ、職場でできる調整を行うことです。

任意の施策への参加や回答を強く求めたり、相談内容を詳しく聞き出したりすることは避けます。参加時間の確保、休憩の取り方、業務の代替など、管理職が調整できる事項を具体的に伝えてください。

また、管理職自身が抱え込まないよう、「どこまで対応し、誰に相談するか」を決めておくことも欠かせません。

5.中小企業は、既存の会議と兼務体制で小さく運用する

専任部署がない企業では、新しい組織をつくるより、進行役を一人決め、既存の会議に確認の時間を設ける方法が現実的です。

経営者は目的と予算を決め、総務などの担当者は日程調整と周知を担います。管理職は業務上の調整を行い、医学的な助言や個別支援は外部の専門職に相談します。担当者一人に健康相談や判断を集中させないことが、継続の条件です。

最初の約3か月は、次のような進め方が考えられます。

時期実施内容残しておくもの
1か月目経営課題を一つ選び、既存情報と簡易アンケートで確認する課題、対象者、担当、情報の取扱い
2か月目健康支援と職場改善を一つずつ試す実施内容、周知方法、運用上の困りごと
3か月目情報の届き方や行動の変化を確認する結果、継続・修正の判断、次の確認日

この期間は進行例であり、病気の予防効果まで判断する期限ではありません。まずは、無理なく運用できるか、支援が届いているかを確かめます。

予算が限られる場合は、公的機関の健康情報、加入する健康保険の保険者が提供する支援、外部の相談サービスなども選択肢です。地域産業保健センター等を利用する場合は、対象条件や支援内容を確認してください。

少人数で健康情報の集計が難しいときは、無理に詳しい調査をする必要はありません。「休憩を取れるか」「相談先を知っているか」など、職場環境の確認から始める方法もあります。

6.満足度だけでなく、認知・行動・仕事への支障を評価する

指標は施策の目的に合わせて選ぶ

「好評だった」「参加者が多かった」は大切な情報ですが、それだけでは課題が変わったか分かりません。実施前に、取り組みが届いたかを見る指標と、課題の変化を見る指標を選びます。

評価する段階KPIの例結果から考えること
認知施策や相談先を知っている人の割合周知経路は適切だったか
参加・利用対象者に対する参加率、相談制度の利用状況時間や申込方法が障壁になっていないか
行動休憩を取れている割合、受診につながった状況実践しやすい支援になっているか
健康課題睡眠の休養感、疲労感など課題の傾向に変化があるか
仕事への支障同じ尺度で測るプレゼンティーイズム健康上の支障がどう変化したか

すべてを測る必要はありません。例えば休養をテーマにするなら、情報の認知、休憩行動、休養感、仕事への支障などから、運用できる項目に絞ります。

割合を使う場合は分母を明確にし、質問文、対象期間、集計方法もそろえます。独自の質問で得た点数を、検証済みの生産性損失率として扱うことは避けてください。

短期の運用確認と、中長期の変化を分ける

周知後には認知や参加状況を、数か月後には行動や仕事への支障を確認します。健診結果など年単位で見る情報は、短期の施策評価と分けて扱います。

認知が上がっても利用が少なければ、必要性だけでなく、利用時間や上司への申出のしにくさを確認します。行動が変わらなければ、職場の制約が残っていないかを見直します。

数値の増減は、必ずしも良し悪しを直接示しません。相談利用の増加は、相談しやすくなった結果かもしれません。欠勤の減少も、無理な出勤が増えていないか確認が必要です。

繁忙期、人員構成、回答者の違いも結果に影響します。少人数の企業では、共有によって個人が推測されないか確認したうえで回答数も示し、単回の変動で結論を出さず、推移を見ましょう。売上や離職率が変化しても、健康施策だけの効果とは断定できません。

7.経営会議では、活動報告を「次の判断」につなげる

健康経営を人的資本経営に組み込むうえで重要なのは、経営が結果を受け取り、人員配置や業務の進め方を判断することです。新たな会議を設けなくても、月次会議で運用を確認し、あらかじめ決めた時期に施策全体を見直せます。

報告は、次の項目を一枚にまとめると共有しやすくなります。

  • 事業・人材上の課題と、関連すると考える健康・職場の課題
  • 実施した内容、対象者、費用、担当者と現場の負担
  • 指標の変化と、解釈する際の注意点
  • 続けること、変えること、終了すること
  • 経営者に判断してほしい事項と、次の確認時期

この資料の目的は、成果をよく見せることではなく、次の行動を決めることです。

例えば、睡眠に関する情報は届いても、繁忙部署で休養を取りにくい状況が続いているなら、同じ教育を繰り返すだけでは不十分かもしれません。業務の優先順位や担当の分散を見直す判断が必要になります。

こうした判断を育成・配置の方針とも結び付けることで、健康施策が単独の福利厚生ではなく、人が力を発揮するための取り組みになります。

社外に説明する場合も、「課題、取り組み、確認結果、今後の改善」を一貫して示し、個人の特定や効果の誇張を避けます。人的資本に関する開示義務や健康経営優良法人の認定要件は別に確認し、適用される最新の公的情報に基づいて対応してください。

FAQ

Q1.経営者から「売上につながる根拠はあるのか」と聞かれたら、どう説明すればよいですか?

売上への直接効果を約束するのではなく、「いま事業運営の妨げになっている支障を、どこまで減らせるか確認する」と説明します。業務上の困りごと、健康・職場の仮説、試す施策、判断時期を示すと、実施の必要性を検討しやすくなります。従業員の安全や健康を守る対応は、短期的な収益性だけで判断しないことも重要です。

Q2.アンケートに答えたくない従業員には、どう対応すればよいですか?

任意のアンケートは、回答しない選択を尊重します。そのうえで、目的や情報の取扱いが十分に伝わっているかを確認してください。個人情報への不安、質問の多さ、勤務中に回答できないことなど、回答しにくい条件を改善します。未回答者を管理職が個別に追及する運用は避けましょう。

Q3.個人の健康情報がなくても、取り組めますか?

取り組めます。休憩の取りやすさ、業務量の偏り、夜間連絡、相談先の認知など、職場の条件を確認する方法があります。個人の健康状態を詳しく集めることよりも、会社が改善できる点を見つけ、実行することが大切です。

Q4.一定期間続けても指標が改善しない場合は、施策をやめるべきですか?

すぐに終了と決めず、「届いていない」「利用しにくい」「課題と施策が合っていない」「判断には期間が短い」のどれに当たるかを確認します。対象者の声や運用負担も踏まえ、内容・時間・周知方法を修正するか、別の施策に切り替えます。法定対応は、任意施策と同じ基準で終了を判断してはいけません。

Q5.健康経営優良法人の認定を取れば、人的資本経営を実践できているといえますか?

認定は取り組みを整理する機会になりますが、それだけで人的資本経営の全体を示すものではありません。事業に必要な人材の育成・配置と、健康で働ける環境づくりを結び付け、結果を踏まえて経営が改善を判断することが重要です。

まとめ

健康経営は、従業員が能力を発揮できる土台を支え、人的資本経営に貢献する取り組みです。施策の数を増やすよりも、経営課題と健康・職場の課題を結び付け、改善の判断につなげることが重要になります。

まずは経営上の困りごとを一つ選び、既存情報で現状を確認しましょう。そのうえで、健康支援と職場改善を組み合わせ、担当、伝え方、確認指標、見直し時期を決めます。

最初の一歩は、経営者と担当者で「何に困っているか」「何を確かめるか」「次回の会議で何を判断するか」を一枚にまとめることです。小さく試して振り返る仕組みが、健康施策を継続的な人材への投資につなげます。

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