プレゼンティーイズムの測り方と改善の進め方|簡易調査から始める職場づくり
「欠勤は少ないのに、疲れている従業員が目立つ」「頭痛や腰痛で仕事がつらそうだが、会社として何をすればよいか分からない」。勤怠記録や健康診断だけでは、出勤中の困りごとまで見えないことがあります。
こうした状況を捉える手がかりが、プレゼンティーイズムの測定です。プレゼンティーイズムとは、出勤しているものの、心身の健康上の問題によって仕事に支障が生じている状態を指します。
ただし、アンケート等で点数を集めるだけでは改善につながりません。調査の目的や情報の扱いが曖昧だと、「人事評価に使われるのでは」と従業員が不安を感じ、実態を答えにくくなります。
大切なのは、働けていない人を探すのではなく、健康上の困りごとと職場の改善点を見つけることです。
専任部署や大規模なシステムがなくても、短いアンケートと既存の会議を使って始められます。本記事では、測定方法の選び方から、匿名性に配慮した調査、改善策の実施、再測定までを順に解説します。
目次
- 1.測定の目的と担当を決める
- 調査前に決めておくこと
- 2.測定方法と情報管理を整え、調査する
- 標準化された尺度と簡易アンケートの違い
- 簡易アンケートの設問例
- 匿名性は、氏名以外の情報にも注意する
- 3.集計結果から優先課題を選ぶ
- 健康の困りごとと職場の条件を合わせて読む
- 優先順位は三つの視点で決める
- 4.改善策を設計する|中小企業は一つの課題から始める
- 施策ごとに対象・担当・確認日を決める
- 専任部署がない会社の現実的な第一歩
- 5.従業員と管理職に伝え、日常業務で運用する
- 管理職には「何をするか」と「何をしないか」を伝える
- 匿名調査とは別に相談先を案内する
- 6.KPIで効果を確かめ、一定期間後に見直す
- 再測定では条件をそろえる
- 改善しない場合は、施策の途中を点検する
- FAQ
- Q1.数人規模の会社では、健康状態を尋ねないほうがよいのでしょうか?
- Q2.忙しい時期を避けて調査すべきですか?
- Q3.回答率が低い場合、回答を必須にしてもよいですか?
- Q4.調査をしたら、すべての要望に対応する必要がありますか?
- Q5.調査で「支障が大きい」という回答があれば、受診させるべきですか?
- まとめ
- 健康経営の取り組みを進めたい企業へ
1.測定の目的と担当を決める
プレゼンティーイズムは、病気や不調による欠勤・休業を指す「アブセンティーイズム」とは異なります。例えば、腰痛で作業を続けにくい、眠気で集中できない、頭痛で判断に時間がかかるといった状態です。
欠勤日数だけでは見えない支障を把握することで、健康情報の提供だけでなく、休憩の取り方や作業環境、業務配分を見直す材料になります。従業員が能力を発揮しやすい環境を整えるという点で、健康経営や人的資本経営にも関わる取り組みです。
一方、仕事の遅れやミスには、人員不足、設備、業務手順なども影響します。生産性に関する問題を、すべて従業員の健康状態で説明しないことが重要です。
調査前に決めておくこと
経営者と担当者で、次の事項を確認しましょう。
- 目的:健康上の仕事への支障を把握し、職場改善につなげる
- 対象:全従業員、または試行する職場・勤務形態
- 担当:調査の運営、情報管理、改善策の実施を担う人
- 活用範囲:集計結果を職場改善と効果確認に使い、個人の査定や順位付けには使わない
- 見直し時期:施策の実施状況と再測定の結果を確認する時期
担当者は兼務でも構いません。ただし、調査を実施する人と、業務や予算の変更を判断する人を明確にし、担当者だけで抱え込まない体制にします。
対象を一部の職場に限定する場合は、「問題のある部署だから」ではなく、試行の範囲や業務上の理由を説明してください。
2.測定方法と情報管理を整え、調査する
測定方法は、「まず社内の傾向を知りたい」のか、「一定の尺度で継続評価したい」のかで選びます。回答の負担だけでなく、結果をどう使うかまで考えて決めましょう。
標準化された尺度と簡易アンケートの違い
代表的な尺度には、WHO-HPQやWFunがあります。WHO-HPQは仕事のパフォーマンスなどを、WFunは健康問題による労働機能障害を評価する尺度です。測定する内容や得点の意味は同じではありません。
利用する場合は、公式資料などで設問、対象期間、採点方法、利用条件を確認します。独自に設問や選択肢を変更すると、元の尺度として解釈できなくなることがあるため、必要に応じて産業医や保健師などに相談してください。
社内の困りごとを把握することが目的なら、短い独自アンケートから始める方法もあります。ただし、独自調査の点数は診断に使えるものではなく、他社との厳密な比較にも向きません。 自社内の傾向や変化を見る参考指標として扱います。
簡易アンケートの設問例
対象期間をそろえ、回答に数分で済む量を目指します。例えば「過去4週間」を対象に、次の内容を尋ねます。
| 把握したいこと | 設問例 |
|---|---|
| 健康による仕事への支障 | 健康上の問題によって、集中・判断・作業などにどの程度支障がありましたか |
| 主な困りごと | 仕事に影響した困りごとはありますか。睡眠・眠気、腰や肩の痛み、頭痛、目の疲れ、気分の落ち込みなどから選んでください |
| 職場の改善点 | 休憩の取り方、業務量、勤務時間、作業姿勢、相談のしやすさなどで、改善してほしい点はありますか |
| 希望する支援 | 健康情報、相談窓口、作業環境の改善、受診しやすい時間の確保など、希望する支援はありますか |
支障の程度には、「支障なし」から「非常に大きな支障」までの段階式、または「0=支障なし、10=非常に大きな支障」といった回答方法が考えられます。独自の点数をそのまま「生産性損失率」に換算しないでください。
「該当なし」「答えたくない」も用意します。病名、服薬内容、詳しい治療歴は、職場改善に必要でなければ集めません。自由記述は任意とし、本人や他者が特定される情報を書かないよう案内します。
匿名性は、氏名以外の情報にも注意する
氏名を聞かなくても、所属、年代、役職、勤務形態などの組み合わせから本人が分かる場合があります。少人数の会社では、属性を細かく集めず、全社単位で集計するほうが適していることもあります。
実施前には、次の運用を決めます。
- 生データを閲覧できる人と、管理職に共有する情報の範囲
- フォームが取得するメールアドレス、ログイン情報、回答時刻などの扱い
- データの保存場所、保存期間、削除方法
- 少人数の集計や、個人を推測できる自由記述を公表しないルール
管理職への共有は、原則として集計結果にとどめる運用が考えられます。集計・公表する人数の下限も事前に決めますが、一定人数を超えれば必ず安全というわけではありません。
健康に関する情報は機微性が高く、内容によっては要配慮個人情報に該当します。個人を識別できる情報を収集する場合は、取得や利用、委託先での管理を含め、適切な取り扱いを確認してください。
匿名性を確保できない仕組みを「匿名」と説明しないことも大切です。誰が何を閲覧できるのかを正確に伝えたうえで実施しましょう。
3.集計結果から優先課題を選ぶ
集計では平均点だけでなく、回答数・回答率、支障の程度の分布、主な困りごと、職場への要望を合わせて見ます。
回答率が低ければ、結果が職場全体を代表していない可能性があります。未回答者の状態は分からないため、「回答がなかった人には問題がない」とは考えないでください。
健康の困りごとと職場の条件を合わせて読む
例えば、腰や肩の痛みが多く、作業姿勢への要望も多い場合は、体操の案内だけでなく、机や椅子、作業方法の点検が候補になります。
睡眠・眠気の回答が多く、残業や勤務時間への不満も見られる場合は、生活習慣だけでなく、働き方を確認する必要があります。ただし、同じ調査で両方の回答が多いことだけでは、原因と結果の関係までは断定できません。
健康診断の集計、残業時間、欠勤日数なども補助的な判断材料になります。ただし、健診結果やストレスチェックの個人結果を、担当者が自由に閲覧・突合できるわけではありません。目的と利用可能な範囲を確認し、必要な情報だけを使います。
法定の健康診断やストレスチェックと、任意のプレゼンティーイズム調査は別の取り組みです。この調査で法定の対応を代替することはできません。
優先順位は三つの視点で決める
- 広がり:同じ困りごとを持つ従業員がどの程度いるか
- 影響:仕事への支障や安全面への影響がどの程度あるか
- 実行可能性:会社で対応できることと、専門家の支援が必要なことは何か
この視点で候補を整理し、最初の施策を一つか二つに絞ります。回答数の多さだけで優先順位を決めないことがポイントです。
例えば、強い眠気を伴う運転や機械操作など、安全に関わる問題は、人数や平均点にかかわらず適切な対応が必要です。匿名調査では個別対応ができないため、日常の安全管理と、本人が利用できる相談経路も整えておきます。
4.改善策を設計する|中小企業は一つの課題から始める
改善策は「従業員に気をつけてもらうこと」だけに偏らせず、情報提供、職場環境、相談支援を組み合わせて考えます。
| 主な課題 | 企業が取り組めること |
|---|---|
| 睡眠不足・日中の眠気 | 睡眠の基礎情報の提供、残業や勤務時間の確認、休憩運用の見直し、相談先の案内 |
| 腰や肩の痛み・目の疲れ | 作業姿勢や設備の点検、無理なく姿勢を変えられる運用、専門職への相談 |
| ストレス・気分の落ち込み | 業務量や役割の調整、管理職の相談対応の整備、相談窓口の周知 |
| 受診や相談のしにくさ | 窓口と利用方法の明示、受診・相談の時間を確保しやすい運用 |
この表は施策の候補です。症状から病気を推測したり、一律に同じ対策を求めたりするためのものではありません。症状が続く場合や支障が大きい場合は、産業医、保健師、医療機関などにつなぎます。
生活習慣病のように自覚症状がないこともある健康課題は、プレゼンティーイズム調査だけでは捉えられません。健診から分かる予防課題と、今回の調査で分かる仕事上の支障は、分けて考えましょう。
施策ごとに対象・担当・確認日を決める
例えば「休憩を取りやすくする」なら、対象の職場、交代の方法、現場の調整担当、開始日、運用を確認する日まで決めます。
「健康意識を高める」といった抽象的な目標だけでなく、「朝礼で情報を共有する」「各チームで休憩の交代方法を決める」など、実施したか確認できる行動に落とし込むと運用しやすくなります。
専任部署がない会社の現実的な第一歩
中小企業では、兼務担当者と経営者が、既存の会議で結果を確認する形でも始められます。最初から多くの設問や施策を用意する必要はありません。
取り組みの例として、次の流れが考えられます。
| 時期の目安 | 取り組み |
|---|---|
| 1か月目 | 目的と情報管理を決め、短いアンケートを実施する |
| 2か月目 | 集計結果から課題を一つ選び、改善策を始める |
| 3か月目 | 実施状況を確認し、同じ設問で再測定する |
これは進行例であり、必須の期間ではありません。繁忙期や勤務形態に合わせて調整してください。
健康情報は厚生労働省などの公的情報を活用し、朝礼、社内会議、掲示、社内ポータルで共有できます。外部支援が必要な部分は、産業医・保健師、保険者、地域産業保健センターなどの支援内容や利用条件を確認しましょう。
5.従業員と管理職に伝え、日常業務で運用する
施策が決まっても、対象者に届かなければ利用されません。また、調査後に説明がなければ、「答えても何も変わらない」という印象が残ります。
従業員には、集計結果の主な傾向、実施すること、すぐには対応できないこと、次の確認時期を伝えます。個人を推測できる情報は載せません。
例えば、「休憩を取りにくいという声があったため、交代方法を見直します。開始後に、実際に休憩を取れているか確認します」と伝えると、回答と改善のつながりが分かります。
管理職には「何をするか」と「何をしないか」を伝える
管理職の役割は、病名や治療内容を聞き出すことではありません。業務上の負担を確認し、業務量、締め切り、休憩、仕事の進め方を調整することです。
声かけは、「体調管理ができていない」ではなく、「今の業務で負担になっていることはありますか」「仕事の進め方で調整できる点はありますか」といった聞き方にします。
相談を受けた際の連絡先と、情報共有の範囲も伝えておきましょう。本人の健康情報を、必要な範囲を超えて周囲に広めない配慮が必要です。
匿名調査とは別に相談先を案内する
匿名調査では、支援が必要な人を特定して連絡できません。そのため、アンケートとは別に、本人が希望して利用できる相談先を設けます。
相談先の名称だけでなく、利用方法、対応する人、相談内容の取り扱いを説明してください。社内で相談しづらい人に向けて、外部の相談先も選択肢にするとよいでしょう。
交代勤務者や説明会に参加できない人にも届くよう、紙や社内ポータルなどを併用します。周知した後は、既存の会議で実施状況を確認し、現場で使いにくい点があれば調整します。
6.KPIで効果を確かめ、一定期間後に見直す
満足度だけでは、職場の課題が改善したかは分かりません。「施策が届いたか」「利用されたか」「行動や環境が変わったか」「仕事への支障が変わったか」を分けて確認します。
すべてを測る必要はありません。選んだ施策に合うKPIを少数に絞り、開始前に確認方法と時期を決めましょう。
| 確認すること | KPIの例 |
|---|---|
| 認知 | 施策や相談窓口を知っている人の割合 |
| 参加・利用 | 健康教育の参加率、相談利用件数 |
| 行動・職場環境 | 休憩を取りやすいと答えた人の割合、決めた運用の実施状況 |
| 健康上の困りごと | 睡眠・眠気、痛みなど、選んだ課題を訴える人の割合 |
| プレゼンティーイズム | 同じ尺度による得点、または同じ独自設問による支障の程度 |
例えば、休憩の運用を見直した場合は、「休憩を取りやすくなったか」と「仕事への支障が変化したか」を組み合わせて見ます。相談利用件数は、少人数の職場では個人が推測されない集計・共有方法にしてください。
相談件数が増えたことは、必ずしも健康状態の悪化を意味しません。窓口が知られ、利用しやすくなった可能性もあります。指標は単独で良し悪しを判断せず、施策の実施状況と合わせて解釈します。
再測定では条件をそろえる
初回と再測定は、設問、対象期間、回答方法をそろえます。繁忙期や季節、対象者の変更も記録し、回答率や回答者の構成を確認してください。
匿名調査の前後比較は、同じ人の変化を追っているとは限りません。平均点が下がっても、回答者が入れ替わっていれば、単純に改善したとは言い切れません。
また、得点の変化を、そのまま売上増加や人件費相当の損失削減額に換算しないことも重要です。自己申告による測定には限界があり、業務条件など健康以外の要因も影響します。
改善しない場合は、施策の途中を点検する
変化が見られないときは、次の順に確認します。
- 施策や相談先が従業員に届いているか
- 知っていても利用・実行しにくい事情がないか
- 選んだ施策が課題に合っているか
まず実施方法を修正し、それでも課題が続く場合は施策自体を見直します。例えば、開始後1か月で運用、3か月後に再測定、半年程度で継続・変更を判断するなど、確認日を予定に入れておくと取り組みが止まりにくくなります。
FAQ
Q1.数人規模の会社では、健康状態を尋ねないほうがよいのでしょうか?
人数だけで一律に判断する必要はありませんが、回答内容から本人が推測されやすい点に注意が必要です。匿名性を守るのが難しい場合は、休憩、業務量、作業環境など、健康情報を含まない質問から始める方法があります。個別の健康相談は、別の窓口で受け付ける形も検討できます。
Q2.忙しい時期を避けて調査すべきですか?
繁忙期の支障を把握すること自体にも意味があります。ただし、再測定を閑散期に行うと、施策の効果と業務量の違いを分けにくくなります。調査時期の業務状況を記録し、できるだけ比較しやすい時期に実施するか、繁忙期と通常期を分けて捉えましょう。
Q3.回答率が低い場合、回答を必須にしてもよいですか?
まず、目的や情報管理への不安、回答の負担、周知不足を確認してください。勤務時間内に回答できる時間を設ける、全員に一斉に再案内するなどの工夫が考えられます。任意と説明した調査で回答を強制したり、未回答者を問い詰めたりすると、信頼を損なうおそれがあります。
Q4.調査をしたら、すべての要望に対応する必要がありますか?
すべてをすぐに実施する必要はありません。安全面への影響、課題の広がり、実行可能性を踏まえて優先順位を決めます。重要なのは、採用する施策だけでなく、今は対応できない理由や今後の検討予定も伝えることです。
Q5.調査で「支障が大きい」という回答があれば、受診させるべきですか?
点数だけで病気や受診の必要性は判断できません。全員に相談・受診先を案内し、本人が利用できるようにします。個別の就業配慮や安全上の対応が必要な場合は、担当者だけで判断せず、産業医などの専門職に相談してください。
まとめ
プレゼンティーイズムの測定は、従業員の評価ではなく、健康上の仕事への支障を減らすために行います。
目的と情報管理を決めてから調査し、結果を健康の困りごとと職場の条件の両面で読み取りましょう。優先課題を一つか二つ選び、担当と確認日を決めて改善策を実施します。その後は、従業員への周知と相談支援を続け、同じ条件で再測定して見直します。
最初の一歩は、経営者と担当者で「何を知り、結果をどう改善に使うか」を確認することです。 専任部署がなくても、小さな調査と一つの職場改善から始められます。
健康経営の取り組みを進めたい企業へ
株式会社ハンドレッドライフは、企業の健康経営支援を行っています。
プレゼンティーイズムや健康課題の可視化、アンケート設計、課題に応じた施策づくり、社内周知、効果測定など、自社の体制に合わせた進め方を相談できます。
「何を測ればよいか分からない」「調査はしたが、改善策が決まらない」といった段階でも、人数や予算、兼務担当者の負担を整理することで、取り組みやすい第一歩が見えてきます。無理なく続けられる仕組みづくりに、外部の支援を活用してみてはいかがでしょうか。
