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健康経営で離職防止に取り組むには?低予算でできる職場環境改善と従業員の声の拾い方

健康経営で離職防止に取り組むには?低予算でできる職場環境改善と従業員の声の拾い方

「退職を申し出られて初めて、仕事の負担が大きかったと知った」「健康相談の窓口はあるのに、忙しい人ほど利用していない」「人を採用しても、残った社員の負担がなかなか減らない」。こうした状況に心当たりはないでしょうか。

離職には、賃金、仕事内容、人間関係、キャリア、家庭の事情など、さまざまな要因が関わります。健康経営だけですべてを解決することはできません。ただし、休憩が取れない、困っても相談できない、特定の人に仕事が集中するといった状態は、企業が見直せる課題です。

大切なのは、健康イベントや福利厚生を増やす前に、従業員が働き続けるうえで、何に負担を感じているのかを確かめることです。専任部署や大きな予算がなくても、既存の勤怠情報、簡易アンケート、日頃の会議を使って始められます。

この記事では、従業員の声を拾う方法から、改善の優先順位、低予算の施策、社内への伝え方、運用と効果測定までを順番に解説します。

目次

1.離職防止に向けた健康経営は「働き続けられる条件」を整える取り組み

健康経営とは、従業員の健康管理を経営的な視点で捉え、戦略的に実践する考え方です。離職防止に生かす場合は、本人の生活習慣だけでなく、健康や働きやすさに影響する職場の条件にも目を向けます。

例えば、睡眠の研修を実施しても、夜間の業務連絡や長時間労働が続けば、十分な休息は取りにくいままです。健康相談を勧めても、利用する時間が取れなければ、必要な人に届きません。健康支援と業務上の改善は、組み合わせて考える必要があります。

欠勤や退職になる前の負担にも目を向ける

出勤していても、体調不良によって本来の力を発揮できていない状態を「プレゼンティーイズム」といいます。勤怠情報だけでは分からない不調や負担を捉える視点です。

ただし、不調の有無から退職を予測したり、個人の人事評価に使ったりするものではありません。「疲労が回復しにくい働き方になっていないか」「業務調整が必要ではないか」を考える材料として扱います。

目標は、退職者を出さないことだけではありません。従業員が健康を守りながら能力を発揮し、安心して働き続けられる環境を整えることです。経験や技能を生かせる職場づくりは、人的資本を大切にする経営にもつながります。

法令への対応と任意の施策は分ける

法令上必要な健康診断、労働時間や休憩の管理などは、任意の健康経営施策とは分けて確認します。必要な対応ができていない場合は、イベントや研修よりも先に是正が必要です。

また、健康経営優良法人の認定取得と、職場の課題解決は同じではありません。認定を目指す場合も、まず自社の課題を押さえ、当該年度の経済産業省や認定事務局の公式資料で要件を確認しましょう。

2.既存データと従業員の声から、負担が生じる場面を把握する

現状把握の目的は、問題のある人や部署を探すことではありません。「いつ、どのような仕事で、何が負担になっているのか」を整理することです。

最初に、社内にある情報を確認する

新しい調査を始める前に、直近半年から1年程度を目安に、利用できる情報を整理します。

  • 退職者数と、面談などで確認できた退職理由
  • 残業時間、有給休暇の取得状況、欠勤・休職の状況
  • 健康診断やストレスチェックの、適切に利用できる集計結果
  • 面談や日常の相談で繰り返し挙がる困りごと

これらを時期や職種ごとに確認すると、「繁忙期に欠勤が増える」「特定の業務を担う人が休暇を取りにくい」といった、追加で確かめたい点が見えてきます。ただし、数字の重なりだけで原因を決めつけないようにします。

健康診断やストレスチェックの情報には、取り扱い上の制限があります。会社の担当者が個人の結果を自由に閲覧・利用できるわけではありません。産業医、保健師、実施機関などに、利用できる情報と集計方法を確認してください。

簡易アンケートは「会社が改善できること」を聞く

満足度だけを尋ねても、次の行動は決まりにくいものです。例えば、直近1か月について、次の項目を5段階で回答してもらいます。

  1. 必要な休憩を取れている
  2. 業務量や締切に無理がない
  3. 困ったときに相談できる相手・窓口がある
  4. 仕事の負担が一部の人に偏っていない
  5. 仕事の後に休息を取り、疲労から回復できている

同じ項目を一定期間後にも尋ねると、変化を確認しやすくなります。自由記述は「働きやすくするために、会社に一つ変えてほしいこと」などに絞ると、具体的な改善につながります。

病名や治療内容など、目的に不要な情報は集めません。また、このような簡易アンケートは、法定のストレスチェックを代替するものではありません。

少人数の職場では、匿名性を過信しない

人数が少ないと、部署、役職、記述内容から回答者が推測される場合があります。「匿名なので絶対に分からない」と説明するのではなく、属性を細かく聞かない、少人数の部署別集計をしない、自由記述は要約して共有するなどの配慮が必要です。

実施前には、次の点を知らせます。

  • 調査の目的と回答の任意性
  • 回答を閲覧する人と、結果を共有する範囲
  • 保存期間と削除の方法
  • 回答の有無や内容を理由に不利益に扱わない方針

声を集めることよりも、安心して答えられることが先です。記名での対応を希望する人向けには、アンケートとは別に相談経路を用意しましょう。

3.優先課題を絞り、低予算の改善を具体的な行動に落とす

集まった要望をすべて同時に実施する必要はありません。まず、健康・安全への影響を確認し、そのうえで困っている人の広がり、負担の大きさ、実行可能性から優先順位を決めます。

重大な安全上の問題、ハラスメント、深刻な健康リスクが疑われる場合は、通常の改善活動の順番待ちにせず、適切な窓口や専門職につないで対応します。

「誰が、何を、いつまでに変えるか」を決める

通常の改善は、優先度の高い1〜2件から試します。施策名だけでなく、担当、対象、変更内容、確認する指標まで決めることがポイントです。

把握した課題低予算で試せる改善主な担当確認すること
電話対応で休憩が中断する当番と交代時間、引き継ぎ方法を決める現場責任者休憩を確保できたか
特定の人に仕事が集中する週次会議で業務量を確認し、補助担当を置く管理職業務の偏りと残業の状況
夜間の連絡に対応してしまう翌営業日対応の原則と緊急連絡の条件を定める経営者・管理職時間外対応と休息の状況
相談先が分からない窓口、相談方法、対応の流れを一覧にする人事・総務窓口の認知と利用上の障壁

この表は、そのまま導入するための一覧ではありません。自社で起きている場面に合わせ、何が改善を妨げているかまで確認して使います。

休憩は呼びかけより、交代の仕組みを整える

「休憩を取りましょう」と伝えるだけでは、電話や接客を担当する人は席を離れられません。交代要員、引き継ぐ内容、急な欠員時の対応まで決めて、実際に取れる状態をつくります。

法令上必要な休憩の確保は優先事項です。そのうえで、休憩中にも仕事の連絡が入るなど、休まりにくい状況がないかを確認します。

業務分担は、別の人への負担の移動で終わらせない

仕事の偏りには、担当変更だけでなく、不要な報告の削減、締切の調整、手順書の作成、複数人で対応できる体制づくりが役立ちます。

仕事を受け取る側に余力があるかも確認してください。分担が難しければ、業務そのものを減らす、優先順位を変える、納期や人員配置を見直すといった経営判断が必要になります。

低予算とは、現場の工夫や善意だけで解決することではありません。追加費用をかけずにできることと、投資や体制変更が必要なことを分けて考えましょう。

4.従業員には対応を返し、管理職には役割を明確に伝える

職場改善は、施策を決めただけでは動きません。従業員には「何が変わるのか」、管理職には「何を実行するのか」を具体的に伝えます。

アンケート後は、結果と会社の判断を共有する

声を集めた後に説明がないと、「答えても変わらない」という不信感につながりかねません。個人を特定できない形で、次の内容を返します。

  • 多く寄せられた困りごと
  • 今回実施する改善と開始時期
  • すぐには対応できないことと理由
  • 次に状況を確認する時期と、意見を伝える方法

例えば、「休憩中の電話対応が負担という声を受け、来月から交代制を試します。1か月後に運用上の問題を確認します」と伝えます。すべての要望に応えられなくても、判断と今後の見通しを示すことが大切です。

周知には、朝礼、社内会議、掲示、社内ポータルなどを組み合わせます。パソコンを使わない職種や、勤務時間帯が異なる従業員にも届く方法を選びましょう。

管理職の役割は、業務調整と専門職への橋渡し

管理職には、休憩の交代を組む、業務量を確認する、勤務時間外の連絡ルールを守るなど、具体的な役割を伝えます。現場だけで解決できない課題を、誰に報告するかも決めておきます。

個別の声かけでは、「最近、仕事で負担になっていることはありますか」「調整できる業務はありますか」と、仕事上の困りごとを尋ねます。管理職が病気を判断したり、詳しい症状を無理に聞き出したりする必要はありません。

健康上の相談は、必要に応じて産業医、保健師、医療機関などにつなぎます。睡眠や生活習慣の情報を提供する場合も、本人の努力だけに委ねず、休息や受診の時間を確保できる働き方と組み合わせましょう。

直属の上司以外にも相談できるようにする

上司との関係に悩む人にとって、上司だけが窓口では相談しにくいものです。人事・総務、別の管理職、外部窓口など、可能な範囲で異なる経路を設けます。

窓口名だけでなく、相談方法、相談できる内容、返信の目安、情報を共有する範囲を知らせてください。安全確保などのために共有が必要になる場合もあるため、「絶対に誰にも伝えない」とは約束せず、情報の扱いを説明します。

5.専任担当者がいない中小企業は、既存の会議を使って小さく運用する

中小企業には、経営者と現場の距離が近く、課題が分かれば判断や調整を進めやすい強みがあります。新しい委員会や専用システムをつくらず、既存の会議と簡単な記録で始められます。

最初の一歩は「一つの困りごと」を確かめること

まず経営者と総務担当者などで、繰り返し聞く困りごとを一つ選びます。例えば「昼休憩を取りにくい」であれば、勤怠情報だけで判断せず、いつ、どの業務で、何が妨げになっているかを短いアンケートや任意の聞き取りで確認します。

その後、交代制などの改善を試し、既存の週次会議で支障がないかを確認します。最初から全社の課題を網羅するより、改善の流れを一度回すことが現実的です。

90日間の試行例

時期実施すること残す記録
1〜2週目目的、対象、担当、使える時間、情報の扱いを決める進め方をまとめた1枚のメモ
3〜4週目既存データと従業員の声から優先課題を選ぶ課題と開始前の状況
2か月目改善を試し、会議で運用上の問題を確認する実施内容と修正点
3か月目同じ質問で変化を確認し、継続・修正を判断する結果と次の対応

これは進め方の一例です。90日で離職防止の効果を証明するのではなく、無理なく運用できるか、負担が軽くなる方向に動いているかを確かめます。

兼務担当者に任せきりにしない

総務などの推進担当者は情報整理と進行管理、経営者は優先順位や予算の判断、管理職は現場の業務調整を担います。兼務であっても、担当者が取り組みに使う時間を業務として確保してください。

社内で判断しにくい健康情報の扱いや相談対応は、外部専門家に確認する方法があります。小規模事業場では、地域産業保健センターなどの公的な支援先も候補です。利用対象や支援内容は、地域の窓口で確認しましょう。

6.効果測定は、離職率だけでなく「届いたか・変わったか」を確認する

離職は複数の要因で起こり、施策の影響が表れるまで時間がかかることもあります。離職率だけでは、改善の途中経過は分かりません。

始める前に現状を記録し、施策に合うKPIを少数選びます。例えば休憩の改善なら、研修の満足度ではなく、休憩の確保状況を中心に確認します。

確認する段階KPIの例読み取るポイント
情報が届いたか相談窓口や新ルールの認知率対象者に伝わっているか
実際に使えたか対象者の参加率、相談利用状況、業務調整の実施状況利用を妨げる条件がないか
行動・負担が変わったか休憩を取れた人の割合、業務量や相談しやすさの回答日々の働き方が変わったか
健康・仕事への影響はどうか疲労回復の回答、不調による欠勤、プレゼンティーイズムの指標不調や仕事への支障に変化があるか
定着状況はどうか離職者数・離職率、退職理由の傾向他の要因も含めて何が起きているか

初期は、この中から施策に合う3〜5項目程度に絞れば十分です。割合を使う場合は、対象者や集計期間をそろえます。プレゼンティーイズムは、利用条件も確認したうえで目的に合う既存の評価尺度を選び、同じ設問・算出方法で継続して測定します。

数字の増減だけで良し悪しを決めない

相談件数の増加は、問題の増加だけでなく、窓口が知られ、相談しやすくなった結果かもしれません。減少した場合も、課題が減ったのか、利用しにくくなったのかを確認する必要があります。

また、参加率や満足度が高くても、業務負担が変わらなければ、施策が課題に合っていない可能性があります。数字と従業員の声を組み合わせて判断しましょう。

3か月後に運用を、半年から1年で経過を見直す

試行開始から3か月程度で、周知方法、利用しやすさ、負担の変化を確認します。そのうえで、継続する、方法を修正する、別の課題を優先する、といった判断を行います。

欠勤や離職の傾向は、半年から1年など、より長い期間でも確認します。繁忙期、採用状況、組織変更なども記録し、変化を健康施策だけの成果と断定しないことが大切です。少人数の会社では、離職率に加え、実人数と個人を特定しない形で整理した経過も見てください。

FAQ

Q1.アンケートの回答が少ない場合、再回答を強く求めてもよいですか?

回答を強く求めるより、答えにくい理由を確かめましょう。目的が不明確、回答者を特定されそう、回答時間がないといった問題が考えられます。

質問数や説明を見直し、回答できる時間を設ける方法があります。未回答者を管理職が個別に追及することは避け、任意性を守ってください。回答率が低い結果は、全従業員の意見を代表するものとは限らない点にも注意が必要です。

Q2.匿名アンケートにハラスメントを疑う記述があったら、どう対応しますか?

通常の職場改善の要望に埋もれさせず、所定の相談窓口や対応責任者につなぎます。ただし、記述だけで事実や当事者を決めつけてはいけません。

回答者探しや原文の不用意な共有は避け、正式に相談できる経路を改めて周知します。必要に応じて外部専門家に相談し、プライバシーと不利益な取り扱いの防止に配慮して対応してください。

Q3.退職面談では、どこまで理由を聞いてよいのでしょうか?

話せる範囲を尊重し、回答を強要しないことが基本です。「負担になっていた業務」「相談しにくかったこと」「改善してほしかった点」など、会社が見直せる内容を尋ねます。

私生活や病歴の詳しい説明を求めたり、引き留めのために問い詰めたりすることは避けましょう。退職者の話だけで職場全体を判断せず、在職者の声や業務データと併せて確認します。

Q4.相談窓口を設けても利用されない場合、廃止してよいですか?

利用件数だけで判断しないことが大切です。窓口を知らない、担当者に話しにくい、秘密が守られるか不安、利用時間が合わないといった障壁がないかを確認します。

社内窓口だけでは相談しにくい場合は、外部の相談経路を案内する方法もあります。件数を増やすことではなく、必要なときに利用でき、相談後に適切な対応につながることを目標にしてください。

Q5.従業員から賃金や人員不足への不満が出た場合も、健康経営で扱うべきですか?

健康への負担と関係する声として受け止めつつ、健康施策だけで解決しようとしないことが重要です。賃金制度、採用、配置、業務量などの経営・人事課題として、適切な責任者につなぎます。

すぐに対応できない場合も、検討する内容と回答時期を伝えましょう。健康教育で不満を解消しようとするのではなく、課題に合った対応を選ぶ必要があります。

まとめ

健康経営を離職防止に生かすには、健康施策を増やす前に、従業員が負担を抱える場面を把握することが出発点です。

既存データと簡易アンケートから課題を確かめ、休憩、業務分担、連絡ルール、相談経路などの改善を1〜2件選びましょう。担当と期限を決め、従業員に対応内容を返しながら試行します。

効果は離職率だけでなく、認知、利用、行動、負担の変化でも確認します。まずは社内で繰り返し聞く困りごとを一つ挙げ、「誰が、何を、いつまでに変えるか」を決めるところから始めてみてください。

健康経営の取り組みを進めたい企業へ

株式会社ハンドレッドライフは、企業の健康経営を支援しています。健康課題の可視化やアンケート設計、プレゼンティーイズム対策、施策の設計、社内周知、効果測定などについて、企業の状況に合わせた進め方をご相談いただけます。

「従業員の声を安心して集める方法が分からない」「限られた予算で何から改善すべきか整理したい」という場合も、現在あるデータや社内体制を出発点に、実行しやすい取り組みを一緒に検討します。